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OBAKE HUNTER GIRLISH #2 

『桜金滅鬼』 - The Blade of Full Petal Jacket -

​八、青桜花

「永さま~! やったのですか! すごいのです~!!」
もちの声だ。
「永さま」とは、この短時間で一体どれだけ打ち解けたというのだ。
後から続いて桜狩りの一団も現れ、それぞれ思い思いの言葉でわたしたちを讃えた。
「永、今回のオバケ狩りも、あなたの勝ちのようですね」
「気にすんな、楽運。それに、お前が桜毒に打ち勝ってオバケを見つけてくれたおかげでもある。正直、今回おれもやばかった」
たしかに、永は桜並木のただ中でも平気に見えた。
どのようにして桜毒を無効化したのだろう。

「永さま、楽運さま! それではオバケ退治のお祝いに、我々の酒宴にご招待します!」
もちに言われるがまま、わたしたちは宴席に加わった。
聞けば、桜に対抗するためであれば、未成年の飲酒も法律で許可されているらしい。


桜に魅入られない方法。
それは桜を見ることである。

矛盾した言い回しだが、言わば「獲られる前に獲れ」ということだろうか。
「花見」と呼ばれるこの儀式こそが、
桜毒を克服し、桜と対等に渡り合う唯一の手段なのだという。
道理で先ほどの永は、桜の中でも平気で闘えたわけだ。

わたしは生まれて初めて、日本酒を口にした。
辛口、というらしいが、わたしの口には合う。
わたしは甘いものは苦手だ。

「花見」とは言えど、誰も花を見ているようには見えない。
ただ呑んで騒いで、楽しんでいるだけだ。
いや、それこそが桜毒を無効化する手段なのだろうか。

「なにを辛気臭い顔をしているんだ、楽運! ほら、もっと呑め呑め!」
「永さまの言う通りなのです~! 楽さまの、ちょっといいとこ見てみたい~」
翌日、二日酔いで、違う意味で「死にたくなる」のだとは思いもせず、
わたし、永、もちは思うさま呑んだ。

桜は人類の脅威だが、それでもわたしは美しいと思う。

満開の花はすぐに散ってしまうが、それ故に人々の心に残留する。
その花は思い出とともに美化され、実物の花など軽く凌駕してしまう。
そんな花があるのだと知った。
いつか二十歳になってお酒を飲んだとき、
この薄桃色の花を思い出すのだろう。

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