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OBAKE HUNTER GIRLISH #1  『壺中煉獄』 - The Infernal Biotope -

四、快刀乱

 妖刀とは、腕でなく、血で振るう物。
普通の人間には扱えないものだ。
しかし第一種保護霊獣であるわたしの身体はそれを可能にする。
 
 右手に蒼の妖刀『出蛭(デビル)』
 左手に緋の妖刀『入蛭(イビル)』
 
 発見された時から二振りで一揃いの番となっているこの刀は、それでいて相反する性質をもつ。
 
 蒼の出蛭は、あらゆるものを融解させる灼熱の刃を持つ。
炎が最も高温に達する時に放つ蒼の輝きを、 その刀身に閉じ込めてあるのだ。
 
 緋の入蛭は、あらゆるものの命脈を絶つ無尽の光を放つ。
日没の直前に太陽が空を染める最も緋い光を、 その刀身に纏わせてあるのだ。
​ 二つの刃の餌食となって、オバケどもは断末魔とともに果ててゆく。
 
 十六を数えたところで近くの敵は出蛭で喰い尽くしてしまった。 永の側の敵を、入蛭の一振りで三体仕留める。光そのものである入蛭の間合いは、無限だ。
「おいこら! これはおれの獲物だって!」
文句を言いつつ、永は自分の大剣でわたしを斬ろうとする。 おっと、これは本気でやばい……。
「あはは!」
永が笑う。 わたしもきっと、笑っているのだろう。
 
 蛭(ひる)。という文字。妖刀と目される刀には、必ずこの銘が入れられている。 もはや意味を失くして久しい字だが、 わたしはこの字がオバケの血を吸い、滅する物であると信じ、願う。
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