OBAKE HUNTER GIRLISH #2
『桜金滅鬼』 - The Blade of Full Petal Jacket -
一、桜道楽土
「地獄ってのはどんなところだろうね? 楽運」
季節は春。ここは大通りの洒脱なオープンカフェ。
永が柏餅にかぶりつきながらわたしに訊いてきた。
「地獄とは、咎人が死後に行くとされるところでしょう。日本では血の池や針の山、焦熱や極寒などがポピュラーですね」
わたしの回答に、永は
「分かってないなぁ、楽運は。」
と、つっかかる。ただ、顔には薄い笑みを湛えて楽しそうだ。
「いいかい。地獄の本質は『獄』、つまり閉鎖性そのものなんだ。
閉じ込められてそこから出られない。それ自体が罰なんだよ。
血やら針やらはオマケにすぎない」
「でもそれならば、天国だって同じようなものではないですか?」
いくら楽園であろうとも、自由に生者の世界に行くことはできまい。極端な話、天国の住人が地獄に出入りすることは不可能に思う。
地獄に行きたい人がいるかは疑問だけれど。
「もちろんその通り。しかし天国での閉鎖性は『不可侵性』という利点に置き換わる。閉鎖されていることで守られている、それが『国』という字で表されているのさ」
『獄』と『国』か……。なんだか釈然としない話だ。
「それでは天国も地獄も本質的には同じ。閉鎖性が両義的に示されたものだと、永は言いたいのですか?」
「そのとおり。花丸をやるぞ、楽運」
「それなら――」
――この日本は天国と地獄、どちらなのだろう?
西暦が廃されて長い年月が過ぎた。
新晴暦639年。日本は鎖国した。
政府はヤマト天蓋という隔絶シールドで国を覆い、
海外との物理的接続を絶ったのだ。
それからさらに約200年。
何も破綻することなく、日本は『国』であり『獄』であり続けた。
「わっ。なんてことするんです、永」
「いいじゃんか。減るものでもなし」
いや、減っている。
わたしのふきのとうパフェのクリームを永が匙ですくって横着した。
どうやらわたしのパフェには『不可侵性』とやらはないらしい。
「あんまおいしくねーな。苦いホイップってどうなんだ? どら、柏餅を一個やろう」
「いりません」
柏餅ばかり十も頼んで、よほど好きなのだろうか。わたしは甘いものは苦手だ。
「知らんのかい、『春の皿には苦みを盛れ』やで。永ちゃん」
ふいにウェイトレスに声をかけられて顔を上げると、
そこにあったのは見知った顔だった。