OBAKE HUNTER BLUES #1  『蒼界姫航』 -Orpheus Complex-

​一、アルハ羊己という男(上)

 白神(しらかみ)自治区、中央区、磐奇楼(いわきろう)
 オバケ退治を生業とするアルハ一門の総本山でもあるその巨大な楼閣を、僕はその日訪れていた。 『翼船(はね)』乗りとしての辞令を受け取るため、呼び出しがかかったからである。『停者(とめ)』から直々に呼び出されたのはずいぶん久しぶりのことだ。僕がかつて見習いとして乗っていた船、『ハヤアキツヒメ』と出会ったあの日以来のことだった。それから数年の実務経験を積み、とうとう今日は一人前の翼船乗りとして、自分の翼船を与えられる手はずになっている。
「しかしここは、なんという広さだ……」
 広大な楼閣の中で、僕は迷子になっていた。左手首にはめた相対時流計(カイログラフ)は現相時間で約束の時間である十時までもうすぐだと告げていた。このままでは遅刻である。
「『翼船』を出ればまったくの無能だな、僕は……」
 普段はどんな距離でも一瞬で移動できる『翼船』を操舵しているというのに、皮肉なものだ。もっと時間に余裕をもてばよかっただろうか。
 しかし、以前に磐奇楼を訪れた時にはこんなふうに迷った記憶はないし、もっと単純で平易な作りの建物だった気がする。それに、こんなに広くなかったはずだ。これでも翼船乗りとして、立体空間把握には自信がある。 まるで、意図的に迷わされてでもいるかのようだった。
「あの時は、我泉さんと一緒だったからかな……」 僕は、船長の頼もしい横顔を思い出していた。 かつてハヤアキツヒメの乗組員だった僕を、優しく導いてくれた船長を。
 ――そんな時だった。後ろから女性の声で呼びかけられたのは。
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